Envisioning Information / Edward Tufteを読む
Microsoftの公式リファレンスで紹介されていた参考文献から「Envisioning Information / Edward Tufte」を読みます。
著者は、Edward Tufte。
タフティは、アメリカの統計学者で、イェール大学の政治学やコンピュータサイエンスの分野で名誉教授になっています。
タフティは、インフォグラフィックの分野でも功績を残しています。
今回紹介する「Envisioning Information」も、邦題に訳すなら、「情報の視覚化」といったところです。
以降、要点をまとめます。
目次の構成(カッコと概要は私の補足です)
- Escaping Flatland(フラットランドからの脱出)
世界は複雑で多次元的であるのに対し、紙は静的で平面であるというジレンマ。
平面上で表現できる次元の数と、データ密度を高めるための戦略を概説。 - Micro / Macro Readings(ミクロとマクロの読み取り)
個々の詳細な情報(ミクロな読み取り)が、大きな一貫性のある構造(マクロな読み取り)へと集積していくデザイン。 - Layering And Separation(階層化と分離)
ノイズを減らし、データの様々な側面を視覚的に階層化および分離することで、詳細さと複雑さを明確にする手法。
2つの要素が相互作用することで、ノイズとなる視覚効果を最小限に抑える。 - Small Multiples(スモールマルチプル)
複数の画像を並べることで、視覚的に比較を可能にする、多変量でデータ豊富なデザイン手法。
デザインの一貫性を保つことで、視聴者はデザインの変化ではなく、データの変化に焦点を当てる。 - Color And Infomation(配色と情報)
色を情報のエンコーディングに利用する手法(ラベル付け、測定、リアリティの表現、装飾)。
色の不適切な使用(カラー・ジャンク)を避けることを強調。 - Narratives Of Space And Time(空間と時間)
地図と時系列を組み合わせ、空間と時間の変数を使った情報表示を検証。 - Epilogue(エピローグ)
Escaping Flatland(フラットランドからの脱出)
世界が複雑で多次元的なのに対し、紙やビデオ画面が 静的で平面な「フラットランド」 という、情報表示の問題提起。
平面上で表現できる次元の数と、単位面積あたりの情報量であるデータ密度の両方を高めるデザイン戦略。
- 多次元的表現
- 多変量データの可視化
- マクロ/ミクロな読み取り
貧弱なデータに見せかけの次元を付加し、装飾で注意を引く手法を強く批判しています。
情報デザインの前提は、読者が注意深く関心を持っている、と見なすこと。
Micro / Macro Readings(ミクロとマクロの読み取り)
全体像(パノラマ)と詳細(ディテール)を統合するという、情報デザインの重要な原則。
個々の 詳細な情報(ミクロな読み取り) が、遠くから見たときには より大きな一貫性のある構造(マクロな読み取り) へと集積していくデザイン。
明瞭さのために詳細を追加する、という逆説的なデザイン戦略を提示し、詳細さや複雑さが増すことで、かえって明瞭になる。
主要な具体例は以下の通りです。
- ニューヨークの等角投影地図: 個々の窓や街路樹の絶妙な細部(ミクロ)が、遠方から見ると建物の大きな構造(マクロ)へと集約される
- ベトナム戦没者追悼碑: 黒御影石に刻まれた58,000人の名前(ミクロ)は、離れて見ると犠牲者の総計を視覚的に測定する灰色の塊(マクロ)となる
- グラフ式時刻表: 時刻表は個々の列車の詳細な運行時間(ミクロ)と、鉄道システム全体の構造やパターン(マクロ)を同時に伝える
見る側に、概観から導かれる選択の自由を与え、情報の制御を作る側から見る側へ委ねます。
Layering And Separation(階層化と分離)
ノイズを減らし、情報の内容を豊かにするためのデザイン戦略。
混乱や雑然さはデザインの失敗であり、データ自体の属性ではありません。
データを視覚的に層状化(stratifying)し、詳細と複雑さを明らかにします。
ノイズを最小限に抑えるためには、デザインに視覚的な重さを差し引く(subtraction of weight)必要があります。
- 色の分離
- グリッド線の抑制
- 階層構造の確立
Small Multiples(スモールマルチプル)
スモール・マルチプルとは、多変量でデータ豊富なデザインのこと。
定量的な推論の中心的な問いである「何と比べて?」に直接答えるための最良のデザインソリューションの一つです。
これは、データや議論の効率的かつ説得力のある要約として機能します。
主な効果は以下の通りです。
- 比較の強制:図版を視線(eyespan)の範囲内に配置することで、見る側はページをめくることなく、変化、違い、選択肢の範囲を視覚的に一目で比較できます
- デザインの一貫性:デザイン構造をすべての画像で反復的に一定に保つことで、見る側はグラフィックの構成の変化ではなく、情報の変化に焦点を当てることができます
- 多次元性と密度の向上:紙の二次元を繰り返し利用し、時間などの変数をマトリックス状に配置することで、次元性とデータ密度を向上させます
スモール・マルチプルは、視覚的な推論の中心に迫るものです。
比較を促すことで、見る側が能動的に情報を選択し、対比を行うことを可能にします。
Color And Infomation(配色と情報)
色を情報デザインに利用する際の戦略と、避けるべき落とし穴について。
色は、抽象的な情報をエンコーディングするために利用される場合、20〜30色を超えると、効果が薄れるどころかマイナスの影響を生むことがあります。
色は、以下の4つの基本的な情報デザイン機能で使用されます。
- ラベル付け(名詞としての色):水と石、氷河と野原を区別するなど
- 測定(量としての色):等高線で標高を示したり、暗さで変化率を示したりする
- 現実の表現(再現としての色):川の青や影のハッチングなど、現実世界を模倣する
- 装飾(美しさとしての色):モノクロでは不可能なほど地形を視覚的に活性化させる
大きく、彩度が抑えられた背景に対し、小さなスポット状の強い色を交ぜることで、データが強調され、全体的な調和が生まれます。
色は本質的に**多次元的(色相、彩度、明度)**であるため、多次元情報を表現するために使用できます。
例えば、散布図の2次元平面上のデータポイントを、赤、緑、青の成分で点灯させることで、さらに3つの変数の値を表現できます。
また、色によって情報の層を分離することは、ノイズの低減に役立ちます。
例えば、黒い筆線と赤い注釈を別々の層として明確に分離することで、明瞭さを保つことができます。
ただし、色相や明度の変化に基づく定量的な色分けは、周辺の文脈効果による知覚的な色の変化に影響を受けます。
そのため、正確な読み取りを確実にするために、等高線やラベルなどの冗長な信号と組み合わせて使用する 「多重性(multiplicity)」 が推奨されます。
Narratives Of Space And Time(空間と時間)
四変数(空間の三次元、時間)を平面(フラットランド)で表現するためのデザイン戦略。
地図と時系列という二つのデザインを組み合わせる手法。
主要な事例は、旅程デザイン(時刻表と経路地図)と舞踊記譜法です。
-
ガリレオの木星の衛星の観測
・ガリレオは1610年に初めて木星の衛星を観測し、その後の詳細な観測をノートに記録しました
・彼の初期の記録は、スケッチと日付の簡単な並び(時系列)でした
・現代的な表現では、この衛星の動きは、一つの空間次元を時間軸で引き延ばしたグリッド上に、連続的ならせん状の曲線(コルクスクリュー図)として描かれます
・これは、グラフィカル時刻表と同様に、空間と時間の物語をミクロ/マクロな視点から伝えます -
旅程(時刻表)のデザイン
・グラフ式時刻表は、空間軸と時間軸を組み合わせることで、特定の列車の詳細な運行時間(ミクロ)と、鉄道システム全体の構造やパターン(マクロ)の両方を同時に記述します
・例えば、1937年作成のジャワ鉄道の時刻表は、3次元空間と時間に加え、他の十数個の変数を同時に追跡する4次元を抽象的に描いています
・従来の表形式の時刻表(例:ニューヘイブン鉄道)が、不要な罫線や文字の繰り返しで混乱を招くのに対し、グラフ式はデータを見ることの巨大な利点を明確に示します -
舞踊記譜法
・ダンスの動きを紙の上に書き写す記譜法も、時間と空間の四次元的な現実を平面上に凝縮する試みです
・記譜法には、スモール・マルチプル、文字と図の統合、階層化と分離など、多様なデザイン技法が採用されています
複雑で四次元的な現実を表現するために、多重性(多機能的な要素)とデータの緻密な統合が不可欠です。
最後に
書籍はこちら(Amazon): Envisioning Information / Edward Tufte
著者のWebサイトはコチラ: Edward Tufte
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